世の中でほとんど常識の「メタバース」、まだ見ぬ未来にもたらすインパクトとセキュリティ対策について

オンラインに構築された、多数のユーザが気持ちの赴くままに情報を流したり情報を得たりできる3次元コンピュータグラフィックスの仮想的な空間。多くの人たちは世界中から各人各様のアバターで参加し、それをもうひとつの「現実」としてこれまでにない日々を過ごす、そんな仮想空間のアイデアは、これまで様々な空想的な世界を科学的仮想に基づいて描かれた作品だけでなく現実のサービスとしても提供されてきました。そして以前と同様に、こうした仮想空間へ皆の関心が最近高まっており、もっとも重要な意味をもつ言葉として「メタバース」が挙げられています。今回は様々なメタバース活用事例、そしてセキュリティ対策について2回に分けて解説したいと思います。

 

メタバースとは

メタバース(metaverse)という言葉は「超(meta)」と「宇宙(universe)」から作り出された複合語で、そもそもサイエンス・フィクション作家であるニール・スティーヴンスンが1992年に発表した小説である「スノウ・クラッシュ(Snow Crash)」に出現する架空の仮想空間サービスに付けられた名前でした。その後科学技術が進歩したことによって、よりすぐれたものや複雑なものになって登場した多種多様の仮想空間サービスの呼び名としても利用されるようになりました。

メタバースは域を出ないバーチャル・リアリティとアーティフィシャル・リアリティだけでなく、PC・モバイル・ゲーム機のすべてにアクセス可能なマルチプラットフォームになり得る可能性を秘めています。2000年代に圧倒的に流行したサービス「セカンドライフ」も、2020年に発売されあっという間に国民的人気を得たNintendo Switch用ゲーム「あつまれどうぶつの森」も、メタバースのひとつであるとされており、フィジカル空間とサイバー空間との間を行き来するような相互に他を補うような関係性を持つという特徴があります。

バーチャル・リアリティ空間における意思疎通の活性化

仮想空間をより内容豊富なものとするためにすぐれた技術へと進歩させていくことには、端末の高性能化やネットワークの高速・大容量化も含まれますが、特に重要なことは近年急速に高度化しつつあるバーチャル・リアリティ技術の活用です。バーチャル・リアリティ技術により、三次元グラフィックスを単に平面のスクリーン上に表示させるだけでなく、専用ゴーグルを通じて仮想空間の中にいるような視覚体験や、コントローラだけでなく感情や意志を伝えるための身体の動きや顔の表情を通じてアバターを自由に操作することが可能になりました。

このような進化は個人的な意思疎通を充実させるだけでなく、ビジネス上でも当事者にとって利益があるものとして注目を集めています。一例を挙げると、Facebookは2014年に買い取ったOculus社のバーチャル・リアリティ技術を効果的に利用した、メタバース・サービスである「Horizon Workrooms」を2021年8月に開設しています。Workroom(仕事場)という名称からも理解できるように、実体を伴わない仮想的な会議といったビジネスでの活用が視野におさめられています。参加者は感情や意志を伝えるための身体の動きや顔の表情を通じてアバターを操作でき、より実際の会議に近い意思疎通を仮想空間で行えるようになっています。

仕事をする空間としてのメタバース

基本的には、希望するモニタの数をバーチャル・リアリティ空間に再現して希望するモニタのサイズにでき、理想的なオフィス空間を実現できる可能性があります。同時にいくつかの仕事をこなす人や出張が多いビジネスパーソンでも、仕事環境をどこにでも再現するのに最適なツールであると考えています。オフィス空間に人々が自由に手を加えて好みのものに作り変えることによって、実際のオフィスをどこにでも持ち運べるようになります。

オフィスのデザイン会社や内装業者などの物理的な工事や納品作業が、デジタルデータの受け渡しによって完了してしまう日も近いかもしれません。落ち着きどころとして何百万人もの人々がアバターの衣装や内装デザインといったデジタルコンテンツの制作によって、生活の糧にしていくような世界観になっていくため、ありのままの自分が所望する場所に住みながら、色々な種類がありそれぞれに様子が異なるビジネスコミュニティに属せるようになります。今までの例では東京などといった人口が多く、商工業・経済・文化・政治などの中心となる都市に偏っていた、事業や取引を成立・拡大させるのによい機会が地方に住む人々にも平等に提供されるため、異なる分野の人や団体が協力して制作することなどの今までなかったものを作り出す可能性があります。

NFTによる仮想空間上でのサービスを生産・分配・交換して消費する活動

2021年4月、『Everydays – The First 5000 Days』と銘うつデジタル芸術、つまり物理的にそのものの本当の姿を持たない芸術作品が、約6935万ドル(約75億円)で落札されたことが報道されました。しかし人々が物事に興味を覚えより深く知ろうとしたことは、そのプライスだけでなくNFTの技術が活用されていた点だったのです。

NFTとは『非代替性トークン(Non-Fungible Token)』の略称となります。数多くのコンピュータで構築された分散型ネットワークと暗号化技術を集約化することによって、同期された取引情報データが記録される手法で構築されたデジタルデータ技術が活用されているため、暗号通貨と同様に、真贋・所有・譲渡にまつわる記録を改竄することが不可能に近くなっています。

従前のデジタルデータはいとも容易くコピーされたり、取引情報のログを改竄されてしまう危険がつきまとっていましたが、NFTを有効活用することで唯一性を確保しながら安全に所有・売買できるため、目もくらむような金額での取引が行われるようになってきました。言うまでもないことですが、仮想空間内のデジタルアイテムについても適用でき、メタバースとNFTを集約化することによって、もっとバリエーションに富んでいてスケールの大きなビジネスが仮想空間上で実施されることが期待されています。

 

COVID-19が招いた災厄的な状況によって生じた「メタバース・バブル」

COVID-19が招いた災厄的な状況によって、仮想空間サービスだけではなく、まわりを取り囲む周囲の状態や世界も変化しました。現実空間で多くの人々が集団をなすイベントは、どこもかしこも中止や厳しい制限を付けたうえでの開催が必要な状況に立たされている一方で、現実に近いイベントも実体を伴わないで開催できる空間としてメタバースが高く評価されています。

メタバースを展開することによって、サービスを提供する企業と利用者とを結びつける場所を提供している企業も、そうした需要を満たすようになっており、例えば『あつまれどうぶつの森』でも、色々な種類があり、それぞれに様子が異なる企業や公的機関とのコラボレーション活動を実現しています。またメタバース自体も従来存在するゲームなどといった用途以外でも使用できるように、本来備えている機能面における技術の向上などが留まることがなく成長し続けており、Facebookの『Horizon Workrooms』もそのひとつであるといえます。

またNFTによって仮想空間における取引が、許容できないリスクがなく危険がゼロになることによって、以前にも増してバラエティに富んだ用途でメタバースを使えるようになるため、バーチャルイベントの開催者を対象としたアンケートでは、バーチャルイベントは『リアルイベントのサブスティテュート』といった位置付けを超えて定着する可能性を示すという調査結果もあります。その受け入れ先としてのメタバースへの注目がより一層高まるものと考えられています。

このような理由が主体となって、仮想空間サービスはメタバースの名目で以前と同様に、その動向や詳細について多くの人から意識されています。関連技術が進歩してよりすぐれたものになることや新たな経済活動を手さぐりで探し求めること、そして『ウィズコロナ』の新たなライフスタイルの模索はしばらく続きそうで、企業によるメタバースへの積極性に富んだ投資する行為もさしあたって対処すべきこととして直面することになります。

それとは反対に、将来の発展のためにクリアすべきハードルもあります。より一層の市場拡大を引き起こすような新しいコンテンツが紡ぎ出されるかどうか、また人々が大挙密集して参加する際には欠かせない、こうあるべきだと包括的に決められた規則の形成が進むかどうかは未知数です。相次いで大企業が新たに加わることと前述のNFTを基礎や基盤として有した経済活動への期待とが影響し合うため、ある意味バブル状態を生み出しているといった批判的な意見もあります。

メタバース・バブルがかつてのセカンドライフ・ブームと運命を同じくするのか、あるいは多くのサイエンス・フィクション作品が空想の翼を広げてきた全人類が参加するような巨大プラットフォームを実現するのかに関係なく、大きな変化のシチュエーションを私たちは目の当たりにしているといえます。

 

メタバースによる複数の人での知識や経験を共有

政府がメタバースにパブリック・スペースを作り出したケースもあります。例えば図書館や博物館など、より多くの国民に情報やカスタマー・エクスペリエンスを安価に届けることが可能になります。実際にアメリカ合衆国の大手銀行であるバンク・オブ・アメリカのストラテジストが、次のアマゾンもしくはアップルを探す投資家のメルクマールとして、テクノロジーの新しい発見・発想に関するリストを発表したとブルームバーグが伝えています。

ハイム・イスラエル氏が率いるチームは、ニューヨーク公共図書館の全蔵書を20秒でダウンロードできる第6世代(6G)通信ネットワークなど、テクノロジー面の『ムーンショット(困難だが実現すれば大きな影響をもたらし得る挑戦)』と呼ぶ14種を列挙しました。同氏のチームが情報源に照らし合わせることによって確かめたところによると、メタバースを含む未来に向けて注目されるテクノロジー14種の市場規模は、現時点では3300億ドルですが2030年代までには年率換算で36%まで増加することによって、計6兆4000億ドルに達する可能性があるとのことです。

ムーンショットのリストは以下の通りとなります。

  • 6G通信ネットワーク
  • エモーショナル人工知能
  • 脳コンピュータ・インターフェース
  • バイオニックヒューマン
  • 不老不死
  • 合成生物学
  • ワイヤレス電力
  • ホログラム
  • メタバース
  • 電動の垂直離着陸機
  • 海洋テクノロジー
  • 次世代バッテリー
  • グリーンマイニング
  • 炭素の回収と貯蔵

 

参考記事

これまでの間、公共財として国や地方公共団体から提供される施設の建設に振り向けられてきた、国や地方自治体が政策の一環として民間の金融機関や企業に投入する財政資金がデジタルコンテンツに流れ込む可能性もあります。このことによって公共の福祉のため整備・提供される施設の維持管理やセキュリティのコストも大幅に軽減される可能性があります。

 

まとめ

今後は、ただ目新しいというだけでなく社会に価値をもたらす、まだ誰も取り組んだことがない新しいビジネスを開始して急成長している企業と大企業が新技術・新製品の開発に際して、組織の枠組みを越え、広く知識・技術の結集を図ることもメタバースの中で行われるような日も近いかもしれません。インターネット、アーティフィシャル・インテリジェンスと続いた画期的な新しい技術の導入によって引き起こされる、経済構造の変革で次にくるのはメタバースかもしれません。

 

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