
2024年6月、クレジットカード業界の国際セキュリティ基準「PCI DSS」の最新版「v4.0.1」が公開されました。v4.0は2024年末で廃止され、現時点ではv4.0.1が唯一有効なバージョンです。さらに、2025年4月以降はベストプラクティスとして猶予されていた要件もすべて義務化されています。
本記事では、v4.0.1の概要やv4.0からの改訂内容、押さえておくべき主要要件、準拠に向けた対応ポイントをわかりやすく解説します。
PCI DSSとは
PCI DSS(Payment Card Industry Data Security Standard)とは、クレジットカード情報を安全に取り扱うために策定された国際セキュリティ基準です。Visa、Mastercard、JCBなど国際カードブランド5社が共同設立したPCI SSC(PCI Security Standards Council)が策定・管理しています。
「安全なネットワークの構築と維持」「カード会員データの保護」など6つの目標と12の要件で構成されており、カード情報を扱う事業体に対して準拠が求められます。
準拠が求められる事業体
PCI DSSの準拠が求められるのは、クレジットカード情報を保存・処理・伝送するすべての事業体です。具体的にはECサイト運営者を含む加盟店、決済代行業者、カード発行会社、ホスティングプロバイダなどが該当します。
v4.0以降では、カード会員データ環境(CDE)のセキュリティに影響を与える可能性のある事業体にも適用範囲が明確に拡大されました。日本国内では、割賦販売法の実務上の指針として位置づけられている「クレジットカード・セキュリティガイドライン」においてもPCI DSS準拠が求められており、カード情報を取り扱う企業にとって対応は不可欠と言えます。
PCI DSS v4.0.1とは
PCI DSS v4.0.1は、2026年4月現在、PCI DSSの唯一有効な最新バージョンです。ここでは、v4.0.1のリリース背景と、v4.0から改訂されたポイントについて解説します。
v4.0.1の位置づけとリリース背景
PCI DSSは2022年3月に約8年ぶりとなるメジャーバージョンアップ「v4.0」がリリースされました。その後、PCI SSCに寄せられたフィードバックや質問を反映する形で、2024年6月11日にマイナーアップデート版の「v4.0.1」が公開されています。
v4.0は2024年12月31日をもって廃止され、2025年1月以降はv4.0.1が唯一有効なバージョンとなりました。また、v4.0で「ベストプラクティス」として猶予期間が設けられていた64の要件についても、2025年4月1日以降はすべて完全に義務化されています。
v4.0からv4.0.1への全体的な改訂内容
v4.0.1はあくまで限定的な改訂であり、新規要件の追加や既存要件の削除は行われていません。主な改訂内容は、誤植や書式の修正、ガイダンスの整合性と明確化、用語の整理、全体的な表現の統一、テスト手順の調整などです。
つまり、v4.0.1はv4.0の基本的な方向性を維持しつつ、文書の可読性と正確性を高めた「軽微なアップデート版」に位置づけられます。既存の技術的な対応計画への影響は限定的ですが、準拠性の評価を受ける際にはv4.0.1の文書を参照する必要がある点に留意しましょう。
個別に改訂された主要4要件
v4.0.1では全体的な表現修正に加え、以下の4つの要件で個別に改訂が行われています。
- 要件8.4.2:カード会員データ環境(CDE)へのアクセスに対する多要素認証(MFA)の適用範囲と実装方法が明確化
- 要件11.6.1:決済ページのスクリプト改ざん検知に関する適用範囲と実装方法が整理
- 要件12.1.4:情報セキュリティポリシーにおける責任者・役割定義の記述を見直し
- 要件12.8.2:TPSP(第三者サービスプロバイダ)との契約書維持について、「該当する場合のみ」と条件が整理
いずれも新規追加ではありませんが、解釈の差異を防いで審査時のトラブルを回避するため、改訂内容を正確に把握しておくことが重要です。
PCI DSS v4.0.1の主な要件と特徴
v4.0.1では、v4.0で導入された多くの新要件がそのまま継承されています。従来のv3.2.1と比較すると大幅にセキュリティ要件が強化されており、ここでは特に注目すべき5つの特徴を解説します。
特徴① カスタマイズアプローチとリスクベースの考え方
v4.0以降では、従来の「定義されたアプローチ」に加えて「カスタマイズアプローチ」が導入されました。これは、PCI DSSの要件が定める目的を満たす限り、事業体が独自のセキュリティコントロールを設計・実装できる仕組みです。
また、リスクベースの考え方も強化されており、ターゲットリスク分析の結果に基づいて、セキュリティ対策の実施頻度や範囲を事業体が主体的に決定できるようになりました。画一的な基準を一律に適用するのではなく、自社の環境に応じた合理的で効果的な対策が可能になった点が大きな特徴です。
特徴② 認証・パスワード要件の強化
認証に関する要件は大幅に強化されています。パスワードの最低文字数がこれまでの8文字から12文字以上に引き上げられたほか、要件8.4.2でカード会員データ環境へのすべてのアクセスに多要素認証(MFA)が必須化されました。
さらに、共有アカウントや汎用アカウントに関する要件も厳格化されており、アカウント管理全般の見直しが求められます。なお、v4.0.1では要件8.4.2の適用範囲に関する表現がより明確に整理されているため、最新の文書に基づいた対応が重要です。
特徴③ ディスク暗号化に関する制限
v4.0で新たに追加された要件のひとつが、PAN(カード会員番号)の保護におけるディスクレベル/パーティションレベルの暗号化の使用制限です。ディスク暗号化ではOSの認証を通過すればデータが復号された状態でアクセスできてしまうため、カード情報保護の手段としては不十分と判断されました。
代わりに求められるのは、ファイル暗号化や列・フィールドレベルのデータベース暗号化、アプリケーションレベルの暗号化など、より粒度の細かい方式です。この要件は2025年4月1日以降、完全に義務化されているため、ディスク暗号化のみで対応していた事業体は早急に見直しが必要です。
特徴④ WAF導入の義務化
要件6.4.2では、一般公開されているWebアプリケーションに対して、WAF(Web Application Firewall)の導入が義務化されました。従来のv3.2.1では、WAFの導入と侵入テストのいずれかを選択することが認められていましたが、v4.0以降ではWAFの導入が必須要件となっています。
WAFはWebベースの攻撃をリアルタイムで検知・遮断する自動化された技術ソリューションであることが求められており、ECサイトやオンライン決済サービスを運営する事業体にとっては、対応の優先度が高い要件です。
WAFについては、以下の記事で詳しく解説しています。あわせてお読みください。
セキュリティ対策に有効なWAFとは?仕組みや種類、おすすめ製品を紹介
特徴⑤ オンラインスキミング対策
近年急増しているWebスキミング攻撃への対策として、要件6.4.3と11.6.1が新たに追加されました。要件6.4.3では、決済ページ上で実行されるすべてのスクリプトを棚卸しし、許可されたもののみが動作する仕組みの整備が求められます。
要件11.6.1では、決済ページのHTTPヘッダーやコンテンツの改ざんを検知し、担当者に通知する仕組みの導入が義務化されています。v4.0.1では要件11.6.1の適用範囲に関する記述も明確化されました。悪意あるJavaScriptの埋め込みによるカード情報の窃取を防ぐために、これらの対策は欠かせません。
PCI DSS v4.0.1準拠に向けた対応ポイント
全要件が完全義務化された現在、自社の準拠状況を改めて確認し、未対応の要件があれば早急に対策を講じることが求められます。ここでは、対応時に押さえるべき2つのポイントを紹介します。
自社の準拠状況の再点検
まず取り組むべきは、ベストプラクティスとして猶予されていた要件が対応済みかどうかの再点検です。特に、WAF導入(要件6.4.2)、オンラインスキミング対策(要件6.4.3・11.6.1)、ディスク暗号化の見直し(要件3.5.1.2)、MFAの全面適用(要件8.4.2)は優先的に確認すべきポイントです。
v4.0.1の最新文書に基づいてギャップを洗い出し、QSA(認定評価機関)や専門家との連携によって対応計画を策定することが有効です。
セキュリティサービスの活用による効率的な対応
WAF導入義務化やオンラインスキミング対策など、v4.0.1で求められる技術要件は、自社だけで対応するのが困難なケースも少なくありません。
クラウド型WAFやマネージドセキュリティサービスを活用することで、導入・運用の負荷を軽減しながら要件への準拠が可能です。サービスを選定する際は、最新のPCI DSS v4.0.1への対応実績があるかどうかを確認することが重要なポイントとなります。
ペンタセキュリティのクラウド型セキュリティサービス「Cloudbric WAF+」については、以下の記事で詳しく解説しています。あわせてお読みください。
Cloudbric WAF+とは?WAAP対応の6つの機能と選ばれる理由を解説
まとめ
PCI DSS v4.0.1は、現時点で唯一有効な最新バージョンであり、2025年4月以降はすべての要件が完全義務化されています。WAF導入やオンラインスキミング対策、ディスク暗号化の見直しなどの対応状況を改めて確認し、最新の要件に即したセキュリティ体制を整備することが推奨されます。
サイバー攻撃からWebアプリケーションを守るには、WAFの導入が効果的です。「Cloudbric WAF+」は最新のPCI DSS v4.0.1に準拠したクラウド型WAFで、SQLインジェクションやクロスサイトスクリプティング(XSS)をはじめとする攻撃を、AIベースの検知エンジンでリアルタイムに検知・遮断します。専門知識がなくても導入・運用が容易で、PCI DSS準拠を目指す事業者のセキュリティ基盤として幅広く活用されています。
自社のPCI DSS対応をご検討の方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。



















